「毎日Do!コラボ『持続可能な開発目標(SDGs)発効1年、企業・団体の取り組みはいま』」が11月16日、毎日メディアカフェで開かれました。
講師は国際連合広報センター(東京都渋谷区)所長の根本かおるさんと、パナソニック(大阪府門真市)ブランドコミュニケーション本部CSR・社会文化部の星亮(ほし・あきら)さんです。
2015年9月、米ニューヨークの国連本部で「持続可能な開発サミット」が開催され、「2030年までに貧困に終止符を打ち、持続可能な未来を追求する」として、新しい開発目標(持続可能な開発目標、SDGs)が、193の加盟国の全会一致で採択されました。
17項目からなる開発目標は、以下になります。
① 貧困をなくそう
② 飢餓をゼロに
③ すべての人に健康と福祉を
④ 室の高い教育をみんなに
⑤ ジェンダー平等を実現しよう
⑥ 安全な水とトイレを世界中に
⑦ エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
⑧ 働きがいも経済成長も
⑨ 産業と技術革新の基盤をつくろう
⑩ 人や国の不平等をなくそう
⑪ 住み続けられるまちづくりを
⑫ つくる責任、つかう責任
⑬ 気候変動に具体的な対策を
⑭ 海の豊かさを守ろう
⑮ 陸の豊かさも守ろう
⑯ 平和と公正をすべての人に
⑰ パートナーシップで目標を達成しよう
根本さんはまず、MDGs(ミレニアム開発目標)からSDGsへとつながった流れについて説明しました。
「SDGsのスローガン『No one left
behind.(誰も置き去りにしない)』は、MDGsの反省から生まれた言葉です。MDGsは、平均値で見た貧困の半減を見ていたからです。世の中のセーフティーネットからこぼれ落ちてしまうような、脆弱な人たちをすくい上げながら発展を目指すという考えです。2000年に入った時、主に発展途上国の社会開発を行うため、8つの目標を掲げました。それがMDGsです。その最終年が2015年でした。貧困人口の半減、飢餓人口の半減、初等教育の普及などでしたが、いろいろと積み残しがあります。15年間で新たに見えた問題もあります。それを束ねたのが、17の開発目標です。これまで教育、健康といった、分野ごとのマスタープランはありましたが、私たちの生活や権利について、途上国も先進国も含めて、360度網羅した形のマスタープランはありませんでした。SDGsは、そういう意味で大変新しいものです。2030年に向けて、世界を牽引していくためのマスタープランです。これを実現するためには、発想を根底から変えるような、トランスフォーマティブ(transformative)な改革、飛躍が必要だと考えられています。2030年に向けて逆算するような形で取り組んでいく必要があります。途上国も先進国もあまねく取り組んでいくという『普遍性』が、特長だと思います」と、説明しました。
日本での取り組みについて。「日本では5月に、安倍晋三首相を本部長とするSDGs推進本部というのが官邸に設けられ、全省庁、全大臣が参画しています。年内には、SDGsを国内実施するための行動指針をまとめることになっています。私も円卓会議のメンバーとして議論に参加しています。ビジネス界も含めて総合的に意見を出し合って、行動指針をまとめています。日本のように、さまざまなステークホールダーを呼んで行動指針を策定している国は、他にありません。いいモデルだと思っています」。
「不可分性、統合性」という特徴について。「17のゴールが別個に成り立っているのではなく、1つが前進すると、他も前進します。例えば女子教育でいうと、女子は⑤、教育は④。教育によって収入の高い職に就くと考えると①です。収入が上がって、働きがいがあると⑧。教育を受けた女子は、子供をより健康に育てることができるので②③⑥。まちづくりなどにも積極的に参加すると考えると⑪。賢い消費者になれるので⑫。和平交渉などに積極的に参加するようになるので⑯……といった具合に。MDGsは、加盟国政府や市民社会に相談せずに、国連の専門家が作ったものですが、SDGsはそのことへの反省から生まれました。SDGsは、3年間にわたって、世界中に意見を募り、投票することもできました。700万人にも及ぶ人の声をふまえた上でできたものです。何を意味するかというと、みんなが実現に貢献するという性質のものだということです。同時に、加盟国政府、国連機関には、説明責任が求められます」。
17のゴールに対し、169のターゲット、230の指標があるそうです。「それぞれが数値目標で、進展状況などが見えやすくなっています。各項目に対して報告が義務づけられるわけですが、日本は来年7月にニューヨークの国連本部で発表することが決まっています。年内に行動指針ができる。来年7月には国連に報告する、ということで、待ったなしです」。
昨年9月にSDGsを採択した場での、ノーベル平和賞受賞者、マララ・ユスフザイさんのスピーチ映像を見ました。「マララさんは特別な家庭の女性ではないですが、おかしいと思ったこと、強く願うことを行動に移して、どんな脅迫を受けてもくじけませんでした。後になって振り返ると、太い道ができていました。教育というのは、平和の礎だと思います。マララさんのように、チェンジメーカーになる可能性があるということです。今年3月に訪問した南スーダンでは、女性の識字率は16%です。男性でも40%ぐらいで、全体で25~26%です。基礎的な教育を受けていないと、基本的な価値観、相手を敬う、相手にも権利があるといったことも、分からない。内戦を繰り広げた結果、2011年に独立した国ですので、多くの人が平和をイメージできないのです。戦争しか知らない。南スーダンの人たちは、力で解決することしかイメージできないのです」。根本さんは、マララさんを例に、教育の重要性について語りました。
その後根本さんは、太陽光発電やスマートフォン、ドローンなど、最新技術の登場で様変わりしたという、国連の支援活動の現場について、画像を使って紹介しました。
続いて、パナソニックの星さんが登場しました。
松下幸之助氏が1918年に創業したパナソニックは、もうすぐ創業100周年を迎えます。「本業の技術や製品を活用した企業市民活動(社会貢献活動)として、『ソーラーランタン10万台プロジェクト』を立ち上げました。世界で12億人の人たちが、電気が使えない状態『無電化』人口とされています。そうした国々に、2012年からの7年間で、10万台を贈ろうというプロジェクトです」。ソーラーパネルとランタン(電灯)がセットになったもので、明るさは3段階で調整でき、天気がよければ6時間で充電できるそうです。「アジア、アフリカの、電気のない村でも携帯電話は普及しています。これは、携帯電話の充電もできます」と星さん。もともとは2006年、ウガンダの大臣から、灯油ランプの煙で困っているという声が届いたことが、開発のきっかけになったそうです。2011年の東日本大震災の被災地支援に活躍しました。
2015年度末までに、ミャンマー、フィリピン、ケニアなど17カ国に対し、6万1564台が贈られました。「相手先の選定基準は、電気のない暮らしをしている人が多い、電化率の低い地域です。ニーズがある地域ということです。ソーラーランタンによって、さまざまな社会課題の解決に寄与できると考えています。SDGsでいうと⑦のエネルギー。さらに③の健康な生活、④の教育、⑤のジェンダーにも関わってきます。全体として、①の貧困の根絶に貢献できると考えています。使われる1台1台が、できるだけ多くの方々のお役に立てればと思いますので、個々の家庭ではなく、学校、保健センター、集会場、学校の先生、助産婦さんなど、パブリック(公共)の目的で使っていただくことを相手先に要請しています。また、使用状況についての報告も要請しています」と星さん。
発展途上国への直接支援の他に、日本の地方自治体や企業がソーラーランタンを購入し、社会貢献活動に利用しているケースもあるそうです。
星さんは「SDGsは2030年が期限なので、今後もいろいろと検討しており、引き続き活用できる取り組みを考えたいと思います」と結びました。
最後に質疑応答があり、閉会しました。
写真説明 (左から)根本さん、星さん